浅井延彦
上荻歯科医院 院長
日本歯科大学を卒業し、上荻歯科医院の院長を務めている。豊富な知識と経験を持ち、日本口腔インプラント学会、顎咬合学会、日本メタルフリー歯科学会に所属し、最新の歯科医療技術の研鑽に励む。
インプラント治療は、歯の喪失に対する革新的な解決策として確立されており、従来の入れ歯やブリッジと並ぶ選択肢の一つです。虫歯や歯周病などで歯を失った患者に適用され、失われた歯の機能を効果的に回復します。しかし、この治療法には外科的介入が必要であり、それに伴うリスクが存在します。さらに、保険適用外の全額自費診療であるため、経済的な負担も大きくなります。これらの要因から、インプラント治療の選択をためらう人も少なくありません。「第二の永久歯」とも称されるインプラントですが、すべての人に適しているわけではありません。では、この治療法が最も効果的で適切なのは、どのような特性や条件を持つ患者なのでしょうか?
インプラントは、その自然な外観と優れた機能性から「第二の永久歯」と呼ばれることがあります。天然歯に匹敵する審美性を持ち、取り外しの必要がない点で入れ歯とは一線を画します。これにより、患者は自身の歯と変わらない感覚で食事や会話を楽しむことができます。以下の項目のうち、一つでも当てはまる場合は、インプラント治療が有効な選択肢として考慮に値するでしょう。
【インプラント治療が最適な人】
・入れ歯にいつになっても慣れない
・入れ歯に抵抗がある
・入れ歯のバネが気になる
・入れ歯が合わない
・入れ歯の管理が面倒
・入れ歯の取り外しが面倒
・口元を美しく保ちたい
・健康な歯を削りたくない
・歯を1本失った
インプラント治療は、失われた歯の機能を回復する革新的な方法です。この手順では、まず局所麻酔を施し、歯肉を切開して歯槽骨を露出させます。次に、チタン製のインプラント体(フィクスチャー)を歯槽骨に直接埋入します。これが人工歯根の役割を果たします。その後、インプラント体と人工歯をつなぐアバットメント(支台)を取り付けます。最後に、天然歯と見分けがつかないよう設計された人工歯(補綴物)を装着します。
インプラントは、三つの主要な構成要素から成り立っています。まず、人工歯根の役割を果たすインプラント体があり、次に、口腔内で目に見える部分となる人工歯(補綴物)があります。そして、これら二つの要素を繋ぐ重要な中間部品として、アバットメントが使用されます。
インプラント治療を行う前には必ず、メリット・デメリットを把握する必要があります。
インプラントは歯槽骨に直接固定されるため、従来の入れ歯とは異なり、日々の着脱や特別な洗浄は不要です。しかし、これは手入れが不要というわけではありません。インプラントのケアは、天然歯と同様のアプローチが求められます。具体的には、毎日の歯ブラシによる丁寧な清掃、歯間ブラシやデンタルフロスを用いた隙間の清掃など、通常の口腔ケア習慣を継続することが重要です。これらの日常的なセルフケアを適切に行うことで、インプラントの長期的な健康と機能を維持することができます。
インプラント治療は、審美性を重視する患者にとって理想的な選択肢です。従来の入れ歯に見られる金属製のバネや、ブリッジで使用される銀色の金属冠とは異なり、インプラントの補綴物は天然歯に極めて近い外観を実現します。
従来のブリッジ治療では、欠損部の両隣の健康な歯を削って支台とする必要があります。この不可逆的なプロセスは、健全な歯質の損失を伴い、将来的な問題のリスクを高めます。例えば、削られた歯と補綴物の間に生じる微小な隙間は、虫歯菌の侵入経路となり、二次齲蝕のリスクを増大させます。一方、インプラントは隣接する健康な歯を傷つけることなく、欠損部のみを治療します。そのため、可能な限り自然な歯を保存したい患者や、将来的な口腔健康リスクを最小限に抑えたい人々にとって、インプラントは理想的な治療法となります。
従来の義歯と比較して、インプラントは咀嚼機能において顕著な優位性を持ちます。部分入れ歯は残存歯にバネを掛けて固定し、総入れ歯は口腔粘膜との吸着力に依存するため、どちらも天然歯に比べて咀嚼力が劣ります。これに対し、インプラントは歯槽骨に直接埋入され、骨と強固に結合します。この生体親和性の高い結合により、インプラントは天然歯に近い安定性と咀嚼力を実現します。
歯槽骨は、咬む圧力がかからない状態が続くと吸収されやすい性質を持っています。長期間入れ歯やブリッジを使用すると、歯槽骨への刺激がなくなり、徐々に吸収されてしまいます。しかし、インプラントは天然の歯と同様に歯槽骨に直接埋め込まれるため、吸収を抑える効果があります。歯槽骨の吸収が進むと、入れ歯が合わなくなったり、噛み合わせが悪くなったり、顔の歪みや表情筋の衰え、老けた印象を与える原因になる可能性もあります。
インプラントは、歯槽骨に埋め込んで補綴物を装着すれば治療が完了するわけではありません。埋め込む手術が終わっても、その後の定期的なメンテナンスが必要です。インプラントを長持ちさせるためには、メインテナンスを怠らず、継続して行うことが求められます。
虫歯や歯周病が原因で歯を失い、インプラント治療を受ける場合は、保険の適用外となり、治療費はすべて自己負担となります。
入れ歯やブリッジの治療とは異なり、インプラントでは歯肉を切開し、歯槽骨に穴を開ける外科手術が必要です。
インプラント体が歯槽骨と結合するまでには、約3〜6ヶ月の時間がかかるとされています。そのため、治療は長期間にわたることが多く、しっかりとスケジュール管理を行うことが重要です。
外科手術を行うため、術後には歯肉が腫れるリスクがあります。腫れは術後2日目に最も強く、そこから徐々に引いていく傾向があります。
インプラントについて、よく頂くご質問を一部ご紹介いたします。
Q.インプラントは虫歯にならないの?
A.インプラントは虫歯にはなりませんが、定期的なメンテナンスが必要です。
インプラントの上部構造は人工歯なので、虫歯にはなりません。ただし、虫歯にならないからといって、歯磨きや口腔ケアを怠ってはいけません。インプラントにとって歯周病は大きな脅威であり、これが原因でインプラントが失われることもあります。そのため、インプラントを維持するためには、定期的に歯科医院でメンテナンスを受けることが重要です。
Q.インプラントは誰でも治療できるの?
A.持病をお持ちの方、歯槽骨の量が足りない場合、治療を受けられない場合があります。
インプラント治療を受けられない方は以下の通りです。また、服用中の薬によっても治療ができない場合があるため、事前にご相談ください。
▼糖尿病
▼高血圧
▼心疾患
▼血液疾患
▼歯槽骨の量が少ない・・・自家骨移植、他家骨移植が必要
▼喫煙者・・・禁煙が必要
Q.インプラントに寿命はあるの?
A.インプラントは10年以上の長期間にわたって使用できるとされています。
一方、入れ歯は約5年、ブリッジは約8年の寿命があります。インプラントを長く維持するためには、適切なセルフケアと定期的なメンテナンスが不可欠です。
今回は、インプラント治療に適した方について、治療内容やメリット・デメリットを含めてご紹介しました。入れ歯が合わない、入れ歯に抵抗がある、健康な歯を削りたくないと考えている方には、インプラント治療が最適です。インプラント治療を検討している方は、どうぞお気軽にご相談ください。