浅井延彦
上荻歯科医院 院長
日本歯科大学を卒業し、上荻歯科医院の院長を務めている。豊富な知識と経験を持ち、日本口腔インプラント学会、顎咬合学会、日本メタルフリー歯科学会に所属し、最新の歯科医療技術の研鑽に励む。
矯正治療を終えた瞬間は、多くの方にとって「長かった努力がようやく実った!」という嬉しい気持ちに満ちあふれるひとときです。しかし、理想の歯並びが完成したからといって、その美しさが自動的に一生続くとは限りません。せっかく手に入れた美しい歯並びを長く維持するには、矯正治療「後」のケアがとても大切になります。この記事では、矯正治療後にやるべきケアや注意点、後戻りを防ぐための秘訣について詳しく解説します。
矯正治療が終わって装置を外した後、歯は新しい位置にしっかり落ち着いているように感じられます。しかし、歯を支えている骨や歯肉は、元々の位置に戻ろうとする「元の位置に戻る力」(後戻り)が働くことが知られています。この後戻りは、特に治療後数年は非常に起こりやすく、何も対策をせずに放置すると歯並びが元に戻ったり、歯と歯の間に隙間ができたりすることも…。
ほとんどの矯正治療後には、「リテーナー」と呼ばれる保定装置の装着が欠かせません。リテーナーは矯正によって移動した歯を新しい位置に固定し、骨や歯ぐきがその環境に慣れるまでサポートする役割を担っています。リテーナーを適切な期間・時間で使わないと、後戻りが発生しやすくなります。
最もよく使われているのが、透明なマウスピース型(クリアタイプ)や床(プレート)型リテーナーです。食事や歯磨き時には取り外せますが、それ以外は原則装着が推奨されます。違和感も少なく、見た目も目立ちにくいのがメリットです。
主に下の前歯の裏側などに使用される細いワイヤー型のリテーナーです。取り外しはできませんが、常時装着されているのでつい忘れてしまう心配がありません。ただし、歯磨きが難しくなるため、より丁寧なケアが求められます。
治療直後は「1日20時間以上」の装着が基本です。半年~1年経過後からは就寝時のみ、最終的には週に数日だけ装着など、段階的に減らしていくことが多いです。詳しいスケジュールは歯科医師の指示に従いましょう。
矯正装置を外すと「やっと普通に歯が磨ける!」とホッとする方が多いですが、実は矯正治療後こそ、虫歯や歯周病への警戒が重要です。歯並びが整うことで磨きやすくなりますが、もし後戻りが起きたりリテーナーの清掃が疎かになったりすれば、トラブル発生リスクが上がります。歯間ブラシやフロス、定期的な歯科健診によるプロケアを活用しましょう。
リテーナーを装着したまま食事をしたり、磨かずに放置したりすると、細菌や食べかすが繁殖して口臭や虫歯の原因に。洗浄剤の活用や、夜間着用後の朝もしっかりと歯・リテーナーの両方を清潔にしましょう。
無意識のうちにしてしまう舌で前歯を押す癖、食いしばり、頬杖、うつ伏せ寝なども、歯並びに悪影響を及ぼす要因です。適切な舌の位置(上あごにつける)、正しい噛み方・姿勢を意識することが、美しい歯並びの維持に役立ちます。歯科医院で「MFT(口腔筋機能療法)」を提案される場合もあります。
矯正治療後も、年に1~2回程度は矯正歯科や一般歯科に通い、後戻りや虫歯のチェックを続けることが大切です。小さな異変も早期に発見・修正できるため、「ちょっと歯が動いたかも?」と感じたら、放置せずに専門家に相談しましょう。
矯正治療の本当のゴールは、治療を終えたその先、長く美しい歯並びと健康な口腔を維持することにあります。そのためには、リテーナーを正しく使うことはもちろん、歯磨きや歯科検診、生活習慣に至るまで「日々のケア」が不可欠です。
せっかく手に入れた理想の歯並びを無駄にしないよう、治療後も油断せず、しっかりとメンテナンスを行いましょう。丁寧なケアとちょっとした意識づけが、あなたの笑顔をいつまでも輝かせてくれるはずです。歯は一生ものの財産。矯正治療後の賢いケアで、健康的で美しい歯並びを未来へつなげましょう。